優里『弐』レビュー|「なりたい自分」になる決意

やりたいことで生きていくって、簡単なようで実際はとても難しい。稼ごうと思えば時間がいくらあっても足りないし、時間を優先すればお金が減っていく。

「書きたいから」。それだけの理由で3年半勤めた会社を辞め、時間の融通が利く派遣社員をしながら細々とライターの仕事を受けていた2年目の春。
経験値も収入もなかなか上がらず、「やめておけばよかったかな」と思い始めていた私に喝を入れてくれたのは、『JAPAN JAM』での優里のステージだった。

細かい言い回しは覚えていないけれど、ラストの曲を歌い終えた後に、たしか彼はこんなことを叫んでいた。

「昔から何やっても中途半端で、バイトも学校も辞めてしまったけど、歌だけは続けてきた。ずっと歌ってきた」

その言葉を聞いた時、優里の音楽に対する情熱がひしひしと伝わってきた。
同時に、「自分のやりたいことをやる」という彼の強い意志を感じたのを覚えている。

生きる理由は自分で決める

そんな優里の信念が表れているのが、2023年3月29日にリリースされた2ndフルアルバム『弐』だ。

1曲目の”ビリミリオン”で、私たちは問いかけられる。もし残りの寿命を50億、または100億で買い取ると言われたらどうするかと。
曲中の主人公は、どんなに大金を積まれようと自分の人生は譲れないと結論づけるのだが、おそらくほとんどの人が同じことを思うのではないか。

シンプルなギターのアルペジオで始まるこの曲は、曲が進むにつれて少しずつ楽器が加わっていき、重厚さを増す。
ラストには拍子も変わることで、主人公が自分の人生の舵を切って進んでいくさまが描かれているようだ。
何気なく過ぎ去っていく日々に、どれだけの価値があるのかを考えさせられる楽曲になっている。

”ビリミリオン”と同じく「自分の人生を歩む」という想いが込められているのが、10曲目に収録されたうぉ”(作詞:優里)だ。

〈やりたいことやれないでさぁ/それって幸せですか?〉〈僕は僕がなりたい僕に/なると決めたのさ〉など、ストレートな言葉で綴られた歌詞は、優里のややハスキーで力強い歌声も相まって聴く人の心を揺さぶってくる。

また、フロントライン feat BAK&YO_CO”の〈無能な自分に気付いて結局/イライラしてしまうだけでしょう/でも何故だかさ/諦めきれないから〉や、ヒーローの居ない街”の〈最底辺から手を伸ばせ/ぎこちないままの僕でもいい〉などからは、「ありのままの自分でいい」というメッセージが汲み取れるだろう(ともに作詞:優里)
とくに”ヒーローの居ない街”はブラスサウンドも取り入れられており、カラフルで明るい曲調が聴いていてポジティブな気持ちにさせてくれる。

〈無能な自分〉や〈ぎこちないままの僕〉といった表現は、おそらく優里が自身をそうだと思っていたからこそ使われているものだろう。
何をやっても続かなかった少年が、唯一ずっと手放さなかった歌を武器に、今や野外フェスやホール会場などの大きなステージに立っている。優里自身のサクセスストーリーを重ねながら聴くと、自分もきっと大丈夫だと勇気をもらえるはずだ。

自分はこのままでいいのか、本当は何をやりたいのか、生きている中で迷うことなんていくらでもある。そんな時に優里の歌は、迷っている自分を奮い立たせてくれるだろう。

1度きりしかない人生。不安に思うこともあるけれど、やっぱり後悔したくない。
彼の歌を聴きながら、100億以上の価値がある今日という日を、自分に正直に生きてみようと思う。

関連記事一覧