King & Prince『Mr.5』レビュー|スイートピーの花束を

2023年4月19日、King & Princeのアルバム『Mr.5』が届いた。彼らにとって初の、そして、5人体制では最初で最後のベストアルバムである。

私がKing & Princeに出会ったのは、デビューシングルである”シンデレラガール”がリリースされた時のことだ。当時、王子様さながらの衣装を身にまとい、複数の音楽番組でこの歌を披露していたのを覚えている。

ただ、この時私が彼らに抱いた印象は「いかにも王道のアイドル」という感じで、その輝かしさが眩しすぎてあまりハマらなかった。
数年経って、真剣に見ていなかったことを後悔するとは知らずに。

まだサヨナラ言うには全然早すぎるのに

そこからキンプリに対する私の印象が変わったのは、2022年の夏頃。たまたま見ていた音楽番組で”ichiban”(アルバムでは通常盤のみに収録)を披露していた彼らを見た時のことだ。

同曲はラッパーのKREVAが作詞・作曲・編曲を務めており、HIPHOPに和の要素を融合させたサウンドが印象的である。単純に曲自体が面白いと思ったし、それをアイドルが歌っているという意外性にも惹かれた。
歌い出す前に5人がハイタッチを交わす様子も、彼らの仲の良さが垣間見えて好感をもった。

そして、何よりも釘付けになったのはダンスである。手先や足先まで気を配り、しなやかな動きをこなす彼らを見て「あれ、キンプリってこんなに歌って踊れるグループだったんだ」と驚いたし、なぜ今までちゃんと追ってこなかったんだろうと悔しくなった。

そして、2022年11月にリリースされた”ツキヨミ”で、さらに彼らの凄さを目の当たりにする。

”ichiban”のHIPHOPに対し、今度はラテン調。ダークな雰囲気の楽曲も、その世界観に染まりながら見事に歌いこなす彼らに再び度肝を抜かれた。

また、同曲のダンスは”ichiban”と同じく世界的ダンサーのRIEHATA氏が振り付けを担当している。アップテンポな曲調にのせて細かい振りをこなすのは、おそらく至難の業だろう。
そんな高難易度のダンスをしながら、1番の聴かせどころであるサビを全員で歌わず、5人でワンフレーズずつ歌い繋ぐ方式にしたのは大きな挑戦だったのではないだろうか。

では、King & Princeが変わってきたのは最近なのかというと、そうではないことがベストアルバムを聴くとよく分かる。

遡ると、2枚目の”Memorial”こそシンデレラガール同様の王道路線であるものの、3枚目の”君を待ってる”は爽やかな応援歌。5枚目の”Mazy Night”はエネルギッシュさあふれる、激しいダンスナンバーとなっている。
7枚目の”Magic Touch”では全編英語詞に挑戦。9枚目の”踊るように人生を。”は楽曲もダンスもミュージカル風のアプローチと、作品ごとにさまざまなカラーを見せてきた。

一方で、”I promise””Lovin’ you”などのポップな楽曲も彼らは見事に歌いこなす。先ほど「変わってきた」と書いてしまったが、「イメージの幅を広げてきた」という表現が正しいかもしれない。

また、シンデレラガールが50曲ほどの候補から自分たちで選曲したことや(※1)、”We are young”で「ファンに聴いてもらえるように歌詞を直した」と発言していることなど(※2)、リリース作品やライブ演出において、彼らが自己プロデュースにこだわってきたことも特筆すべき点だろう。
King & Princeは常に自分たちの力で、自身の可能性を広げてきたグループなのである。

デビュー作から全シングル曲を収録したアルバムのラストを飾るのが、新曲の”Beatiful Flower”だ。
〈My precious one〉〈I promise〉など過去曲の歌詞が引用されている点からも、5年間の集大成を表した曲であることが窺える。

5人の歌声はそれぞれ個性があって、非常に聞き分けやすいグループだと個人的には思うのだが、全員そろったときのハーモニーは本当に美しい。ゴスペル調の壮大な雰囲気を放つこの曲は、アルバムの、そして現体制での活動のフィナーレに相応しいと思う。

「Beatiful Flower」──それはKing & Prince自体を表しているようにも、5年間の活動の日々を表しているようにも思える。彼らからしたら、応援してくれたファン(ティアラ)を指しているのかもしれない。
新曲のタイトルが象徴するように、ベストアルバム『Mr.5』は彼らの歴史が詰まった、美しい花々が咲き誇っているような作品だ。

2023年5月22日をもって、メンバーの平野・神宮寺・岸はグループを脱退。King & Princeは永瀬・髙橋の2人で存続することになる。
発表があってから約半年、未だに受け入れ難い気持ちも少し残るが、新しいスタートを切る5人をこれからも応援したい。

この記事のタイトルにつけたスイートピーの花言葉は、「門出」だ。

美しい花たちが詰まったアルバムを受け取ったお返しに、こちらからも明るい未来を想像させる花束を贈りたい。できることならいつか、また5(6)人そろった姿が見られるようにと願いながら。
精一杯の感謝と愛をこめて。

※1:2018年5月25日『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)出演時の発言
※2:https://twitter.com/kingandprince_j/status/1618612894979231744

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