辻村深月さんエッセイ『あなたの言葉を』、映画『ルックバック』感想|編集部の伝えたい!【2024年6月】
【2024年6月のトピックス】
・辻村深月さんのエッセイ『あなたの言葉を』
・映画『ルックバック』感想
辻村深月さんのエッセイ『あなたの言葉を』
4月に発売された辻村深月さんの『あなたの言葉を』を読みました。
辻村さんが2020年4月から『毎日小学生新聞』で連載していたエッセイを1冊にまとめたものです。
小学生に語りかけるような優しい口調で書かれていて、さらっと読めてしまうのですが、内容は大人もハッとさせられるものばかり。いや、むしろ大人だからこそ響くのかもしれません。
例えばこんな話。
ある時、辻村さんは読者から手紙をいただいたそうです。その子は辻村さんの作品が好きで、クラスメートに本を紹介したそう。皆と感想を話せるようになって嬉しかったけれど、自分のいないところで本の話題が挙がるようになり、次第に“先に知っていたのは自分なのに”と思うようになった──同時に、自分がそんな気持ちを抱いたことに驚いたと書かれていたそうです。
大人でもよくあるのではないでしょうか?自分が好きだったものが人気になって、嬉しいような、どこか寂しいような感覚。
辻村さんは、「作品は『みんなのもの』」であり、「それぞれの心をつかむ『わたしだけのもの』でもある」と綴ったうえで、最後に「そんなふうに思える作品と出会えたこと、その気持ちをどうか大切にしてね!」と結んでいます。(※1)
近くにあったものが遠く離れてしまうような感覚は苦しいけれど、自分にとって大切なものであることに変わりはないし、ずっと“自分の好きなもの”であっていいのだなと、私は読んでいて思いました。
自分の気持ちを言葉にするって、難しいですよね。この感情をどう言葉に置き換えればいいんだろうと、私はよく悩みます。
辻村さんは複雑な感情を柔らかな言葉で表現するのがとても上手で、この本でも自分の気持ちが整理されるような部分が多々ありました。大人の私も、自分の中の“言葉”をしっかりと見つけていきたいです!
※1:辻村深月『あなたの言葉を』(毎日新聞出版)、「わたしだけの「好き」」より一部引用
(かなざわまゆ)
映画『ルックバック』感想
映画『ルックバック』を観てきました。
原作は『ファイアパンチ』『チェンソーマン』などを生み出した、藤本タツキ先生の同名漫画。ジャンププラスで原作が配信された当時は、読者の心を抉る物語に著名人やクリエイターからの反応も多く、大きな話題になりました。
私もそんな原作のファンで、映画は公開2日目に鑑賞してきました。
約60分という短い上映時間でしたが、原作の絵がそのまま動いているかのような躍動感、登場人物である藤野と京本の尊い青春の描写など、どこをとっても素晴らしかった。
ただ、だからこそ私は、もう一度原作を人に勧めたくなりました。
藤本タツキ先生が描く漫画には、セリフや効果音もなく絵だけで物語を魅せる特長があります。音も動きもない漫画は自分のペースで余韻や余白を感じることができ、私が原作を読んで痺れたのはこの余白があったからなんだ、ということに気が付きました。
映画自体もアニメ表現としてももちろん素晴らしい仕上がりですが、漫画と映像作品の魅力の違いを改めて感じた作品でした。
そして、作中に出てくる「描いても何も役に立たないのに(なぜ漫画を描く?)」という問いとその答えは、漫画家やクリエイターに限らず、多くの人の生を肯定するとても心に響くメッセージです。これから先何かの壁にぶち当たった時に、私は『ルックバック』のこのシーンを思い出したいと思います。
ぜひ『ルックバック』は、漫画と映画の両方を観てみてください。
(miku)
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