宍戸翼『宍戸翼の会いに行く単独ツアー』ファイナル公演ライブレポート

宍戸翼の前向きな生き様が全て詰まった、ソロ活動の集大成にふさわしいツアーファイナルだった。


スリーピースロックバンドThe Cheseraseraのボーカル・ギター宍戸翼によるソロツアー『宍戸翼の会いに行く単独ツアー』のファイナル公演が、6月20日東京・下北沢シャングリラにて開催された。

今年3月から始まった全国12か所のライブハウス編と5月の自主企画のスリーマン『Billion Color Modes』を経ての今回のライブでは、初めてソロ曲がバンド編成で演奏されることもあり、平日にも関わらず多くのファンが会場に駆けつけた。

”リハで詰め切れていなかったので、急に登場しちゃいました。”くだけた雰囲気で宍戸が登場すると、開始早々観客の笑いを誘った。ファイナル特有の緊張感を自然と和らげ、落ち着いたブルーの照明の中でゆったりと美しいギターフレーズの「No.8」を最初の曲として感情たっぷりに歌い上げた。2曲目は軽快なリズム感の「ロスタイムボーイ」、続く「幻」では、サビの部分を観客が一緒に歌い、あたたかい空気が会場を満たした。序盤のMCで1曲目に「No.8」(作詞:宍戸翼)を選んだ理由について、”今回のツアーは旅だったから”と話していた。歌詞で描かれる様々に移りゆく情景が旅を感じさせ、そこから滲み出る儚さが切ない曲だが、そんな中でも<無いものは作れば良い/笑うために生きていたい>と希望を捨てていないところが宍戸自身のポジティブさと重なる。ツアー前半はスーパーカブ(125CCの小さなバイク)で移動したことについて、”どしゃぶりでしんどい思いもしたけれど、そういう思いをしたかった。道がつながっていることを感じたくて、当たり前だけど道がつながっていた。”と、一人旅に対する想いを語った。夜の山道の心細さや、旅先でライブハウスの店長やバンドマン仲間にたくさん支えられた感謝の気持ちなど、過酷な状況にならなければ出会えなかったであろう思い出を生き生きとした表情で振り返る様子から、非常に良い旅だったことが伝わってきた。

「物語はいつも」「ギブ・ミー・チョコレート」とアップテンポな曲を熱量高く披露した後は、バイクで走った海岸沿いへ思いを馳せた「白雪」や無力を感じていた時の歌と前置きした「Yellow」で、しんみりとしたムードに雰囲気を変えていった。2020年コロナが蔓延する期間に制作された”越えられない夜を超えるための歌”「グッドラック」の切迫感あるカッティングを聴きながら、ライブどころか外出もままならない中で宍戸がツイキャスを使って毎週弾き語りの配信をしていたこと、それにかなり励まされていたことを思い出しつい感傷的になってしまった。

「グッドラック」を歌い終えると、今は亡き友人から”無から何かを生み出すこと”を教えてもらい、”楽しい企画を提供したり、この世の中で、どうやって遊ぶのかっていうことができている自信がある。早く死んじまいたいなとか、仕事とか全然うまくいかないなというとき『宍戸が遊んでいるから俺も何か遊べないかな』と思えるような人になりたい。音楽をやっているけど、音楽をやりたいということよりも人間としてのメッセージを届け続たい。”と自分のあり方についての真情を吐露した。逆境の中でも、試行錯誤し、いつも前向きにどうやって楽しもうか、やりたいことをやってやろうか、考え行動し続けている姿に力をもらっているのは私だけではないのだろう。多くの観客が深く頷きながら、宍戸の言葉を受け止めていた。

ツアーの中で歌ってきたカバーシリーズの、「君はともだち(ダイアモンド☆ユカイ)」は遊び心を含んで語りかけるように、「僕らが旅に出る理由(小沢健二)」は滑らかに風を切るように、曲に込められたメッセージに合った表現のボーカルで、心にダイレクトに届けられた。

中盤に差し掛かると、本日お待ちかねのバンド編成のコーナーとなり、ステージ上にトップスを着替えた宍戸とバンドメンバーの藤原洋輔(Gt)、toyo(Ba)、山近拓音(Dr)、工藤寛丈(Key)の5人が登場した。まずは、せっかくなのでということで、洋楽カバーの「Sunday Morning(Maroon5)」と「Virtual Insanity(Jamiroquai)」を演奏すると、そのグルーヴの気持ちよさもあってか”立ってください!”と宍戸が観客にスタンディングを促す場面があった。ジャンルを超えて楽しむきっかけを作りたいと、普段はロックバンドをやる宍戸がR&B要素を盛り込んだソロ曲は「magic hour」からスタート。音源のクオリティも高いので、普段のライブで歌われるときもライブハウスのスピーカから流れるオケに決して不満はなかったがやはり生音はこうも迫力が違うのかと驚いた。続く「GAME」は、宍戸がスモークグリーンのグレッチギターを手に取り、歪んだ音のクールなイントロアレンジに冒頭から痺れた。さらに曲中で、メンバー紹介も兼ねたセッションパートがあり、toyoのさらりと弾きながらも高揚するようなベース、工藤の華のある伸びやかなキーボード、山近の粒立ちよくパワフルなドラム、藤原の煌びやかなギター、すべてが兎に角ヤバかった。本当はもう少し上手にこのかっこよさと感動を言い表したいのだが”ヤバい”という言葉が最もしっくりくるメンバーそれぞれの普段の活動についてのトークの後は、宍戸がハンドマイクで「all my love」を表情豊かに歌い、学生時代からの友人である藤原のコーラスも合わさるとよりエモーショナルだった。5人での演奏最後の曲は、今日のライブみたいな楽しい時間の後にふと訪れる寂しさに寄り添う「LONELY TOWN」(作詞:宍戸翼)がアレンジたっぷりの演奏に観客の手拍子も重なり、より解像度高く沁みわたってくる。衣食住が満ち足りていても、心のどこかに孤独を感じる夜もあるが、そんなときに<生きているだけですごいって本当かな/走っても走っても満たされないのにな>と寄り添ってくれる音楽がそばにあるだけで、この孤独を持っていても良いんだなと肯定してくれている気がするのだ。この曲に限らず、宍戸が生み出す音楽は、行き場のない感情に居場所をくれる

バンドメンバーがステージを去って、再び弾き語りスタイルに戻ると、”やりたいことをやって生きていくしかねえよ”と自分の信念を伝えた。年齢をある程度重ねると、もう遅いかなとやりたいことを諦める理由にしてしまうこともある。だけど、臆せずDMで初対面のバンドメンバーに連絡して仲間を集めたり、グッズを自作するためにわざわざシルクスクリーンを買ったりするアクティブな宍戸を見ていると、自分もやりたいことをやった方が楽しいかもしれないと自然と前を向くことができるのだ。終盤は「乱れた髪を結わえて」「ひとりごと」と心の痒い所に手が届くような宍戸節が炸裂する曲でセットリストが進み、メジャー落ちたら負けという風潮への反逆心とかつての恋への想いが込められた「最後の恋」、勢いそのままに「月と太陽の日々」に突入。お決まりの”ギターソロ、俺!!”を合図に立ち上がって激しくギターをかき鳴らし、ロックに観客を魅了して本編を締めくくった。

アンコールでは、再びバンドメンバーも登場。急遽思いついて楽屋で練習してもらったという「君はともだち(ダイアモンド☆ユカイ)」は初合わせとは思えない、息の合った演奏で、一人ひとりの演奏技術の高さを再認識させられた。おかわり「GAME」もあったので、宍戸本人も同じように思っているかもしれないが、本当に今回限りではもったいないと思うほど素晴らしいバンドだった。最後は宍戸が一人ステージに残り、また会えますようにという願いを込めた「賛美歌」で幕を下ろした。

7月のムロフェスから、The Cheseraseraが再始動する。宍戸がソロ活動で積み重ねた経験がバンドにどのようなシナジーをもたらすのだろう。きっと、待ちに待ったファンの熱量も加わって、もの凄いステージになるに違いない。一人のファンとして休止のお知らせを見たときは心臓が止まりかけたが、ソロの経験を積み重ねたことで、ソロの宍戸翼もThe Cheseraseraの宍戸翼もそれぞれの魅力があることを確信できたこの期間は、決して無駄なものではなかった。バンドとソロ両方のライブが楽しめる夢のような日々が近いことにワクワクしながら、宍戸翼の音楽をこれからも信じてついていきたいという気持ちで溢れた夜だった。


セットリスト
01.No.8
02.ロスタイムボーイ
03.幻
04.物語はいつも
05.ギブ・ミー・チョコレート
06.白雪
07.Yellow
08.グッドラック
09.君はともだち(ダイアモンド⭐︎ゆかい)
10.僕らが旅に出る理由(小沢健二)
11.Sunday Morning(Mroon5)※バンドセット
12.Virtual Insanity(Jamiroquai)※バンドセット
13.magic hour  ※バンドセット
14.GAME ※バンドセット
15.all my love ※バンドセット
16.LONELY TOWN ※バンドセット
17.乱れた髪を結わえて
18.ひとりごと
19.最後の恋
20.月と太陽の日々
En1.君はともだち(ダイアモンド⭐︎ゆかい)※バンドセット
En2.GAME  ※バンドセット
En3.賛美歌



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