クジラ夜の街『ワンマンツアー“6歳”』ファイナル公演ライブレポート

まだ6歳か、もう6歳か。彼らはどのように思っているのだろうか。確かなのは、クジラ夜の街の物語はまだここからということだ。

クジラ夜の街が『ワンマンツアー“6歳”』を開催した。本ツアーはメジャーデビューEP『春めく私小説』のリリースと、バンドが6月に結成6周年を迎えることを記念して、全国6会場で行われたものである。結成記念日である6月21日に行われたファイナル・恵比寿LIQUIDROOM公演は、YouTubeにて全編無料配信された。本稿では、配信で視聴したファイナル公演の模様を振り返っていく。

会場が暗転すると、電飾があしらわれたマイクスタンドが輝きだし、早くも幻想的な雰囲気を醸し出す。そこに、メンバー4人とサポートの高田真路(Key)が登場。「皆様、大変長らくお待たせしました。ファンタジーを創るバンド、クジラ夜の街の6歳の誕生日会を始めましょう」と、まるでテーマパークのアナウンスのような宮崎一晴(Vo/Gt)の言葉を合図に、ライブは「風のもくてきち」でスタート。ポップな演奏が会場を包み、言葉通り私たちをファンタジーの世界へと連れていくようだ。

曲が終わると、すぐさま秦愛翔(Dr)のドラムソロへ。しなやかなドラムさばきから繰り出されるダイナミックなサウンドに、山本薫(Gt)、佐伯隼也(Ba)が音を重ねていく。アンサンブルが徐々に盛り上がっていき、呼応するように照明が激しく点滅したところでインスト曲「夜間飛行」へ突入。続くのはもちろん、定番の流れである「夜間飛行少年」だ。

このように、クジラ夜の街のライブの魅力として、曲の移り変わりの美しさが挙げられるだろう。「夜間飛行~夜間飛行少年」のように前奏曲を挟むときもあれば、次の曲のストーリーを朗読するときもある。この後も、「この街には魔法使いが住んでいました」という宮崎の語りともに、インスト曲「詠唱」と「ラフマジック」の流れへ繋がっていった。次から次へと続く短編映画を見ているようで、一瞬たりとも目が離せない。

「今日はグッズもたくさん用意したので見て行ってください。くれぐれも泥棒だけはしないでくださいね!」含みのある言葉の後に奏でられたのは「あばよ大泥棒」。サビでは両手を頭上で左右に振る振付がフロア中で見られ、宮崎も嬉しそうに微笑んでいた。山本、佐伯、秦が順番にクローズアップされた際も、誰もが笑みを浮かべながら楽しそうに演奏していて、メンバーそれぞれの表情がよく見られるのは配信ライブの良いところだと思う。演奏を目の前で見ている観客たちもまた笑顔に満ち溢れていて、幸せな空気が画面越しでも伝わってきた。

そんな楽しげなムードから一転、突如「俺様はファンタジーが大嫌いな魔王様だ!」というナレーションが流れ出すと、ステージは不穏な空気に。(ちなみにこのナレーションはバンドのラジオ番組で使用していたものだが、関東限定ラジオのため他公演ではあまりウケなかったと後のMCで語っていた)そこからハットと黒いマントのようなものを身に着けた宮崎がステージに再登場し、「BOOGIE MAN RADIO」へ。中盤の山本と佐伯のソロ回しもバシッと決まり、フロアからは大きな歓声があがった。

クジラ夜の街の楽曲にはそれぞれ物語があり、言うならば、彼らは各物語の世界を届ける語り手のような存在だろうか。もちろん曲を聴いているだけでも十分楽しめるのだが、視覚が加わるライブだとより高い没入感を得られる。例えば、「幽霊船1361」ではサーチライトのような光が泳ぎ、「ハナガサクラゲ」では水色の灯りがステージを包んで、水の中を表しているようだった。照明も、物語の世界観をつくりあげるのに一役買っている。

あたたかいオレンジ色の照明で届けられたのは「平成」(作詞:宮崎一晴)。〈平成時代にもこんな夜があるのか/僕は信じちゃいなかった〉というシンガロングで会場が一体となった後、疾走感のあるビートが刻まれ、「時間旅行」「時間旅行少女」と続いた。「再会の街」では、重厚感のあるサウンドが寄せては返す波のように強弱を繰り返し、そのまま幻想的な雰囲気をまとって「ヨエツアルカイハ1番街の時計塔」へ。ラストの「オロカモノ美学」は、「いっせーのーでせーの!」などの観客の掛け声も相まって、にぎやかなムードで本編を締めくくった。

メンバーが去った会場に、拍手と歌声が響きわたる。誰かが歌い始めたのであろう「夜間飛行少年」が、自然とフロア中に広がっていったのだ。その様子を見て、ステージに戻った5人は、「歌うまっ!」と笑顔を見せる。その後は「ツアーファイナルなので告知をします」と、新アーティスト写真と新曲のリリースを発表。続けて、早速その“新曲”である「マスカレードパレード」を披露し、再び会場を沸かせた。

「このツアーは6周年を祝うものでもあるけど、メジャーデビューして初めてのワンマンツアーでもあります。旅立ちのワンマンライブ、みんなで革命を起こしにいきましょう!」熱い言葉に続けて、アンコール2曲目に披露されたのは「0話革命」。そこから軽快なドラムが鳴り響き、ライブはいよいよフィナーレへ向かっていく。アンコールのラストは、『春めく私小説』に収録された「踊ろう命あるかぎり」(作詞:宮崎一晴)だ。

曲中、メンバーはそれぞれ顔を見合わせたり、近くに寄ったりしながら、楽しそうに音を奏でる。その光景はまさに、〈ミュージックと数人の友人と恋/それで事足りた世界/不安も不満も尽きぬが/突き抜けりゃそれも良いのだよ〉という歌詞を表すようだ。ここまで数多くのファンタジーを創りだしてきたクジラ夜の街だが、この曲だけは彼ら自身が物語の主人公のように思える。多幸感に満ちた会場に、〈だんだらだんだらだんだんだん〉の盛大なシンガロングが響きわたっていた。

ライブが行われた6月21日は夏至だ。バンド名に“夜”を含みながらも、クジラ夜の街は1年で1番夜が短い日に生まれたバンドだという。だからこそ、「短いながらも色んな人の心に残る夜がつくれたらいい」と語っていた。クジラ夜の街はもう6歳、いや、まだ6歳だ。今年5月にメジャーデビューを果たしたばかりの彼らの物語は、きっとまだ白紙のページばかり。ここからどんな物語が紡がれていくのか、楽しみで仕方がない。

■2023.6.24 クジラ夜の街ワンマンツアー“6歳”@恵比寿LIQUIDROOM セットリスト

1. 風のもくてきち
2. 夜間飛行
3. 夜間飛行少年
4. 詠唱
5. ラフマジック
6. あばよ大泥棒
7. “魔王降臨”
8. BOOGIE MAN RADIO
9. インカーネーション
10. 奔走
11. 幽霊船1361
12. 裏終電・敵前逃亡同盟
13. ロマン天動説
14. 浮遊
15. ハナガサクラゲ
16. 平成
17. 時間旅行
18. 時間旅行少女
19. 再会の街
20. ヨエツアルカイハ1番街の時計塔
21. 序曲
22. オロカモノ美学
En1. マスカレードパレード
En2. 0話革命
En3. 踊ろう命ある限り

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