UVERworld『30』

UVERworld『30』レビュー|彼らの真髄と「決意」が形になった傑作

この三年を振り返ってみると、常に小さな苦しみを感じながら過ごしてきたように思う。
コロナ禍で職場の空気は重くなり、一緒に働いていた仲間は次々と会社を去っていった。価値があると思ってやってきた仕事は部署自体あっさりなくなり、自分の存在価値が揺らいだ。
おまけに心の拠り所にしていたライブは真っ先に世間から悪者にされて開催されなくなった。
これまで信じていたものがどんどん崩れていって、足元がぐらついた感覚になったのを覚えている。

そんな中、UVERworldの『30』がリリースされた。
このアルバムには彼らの真髄と「決意」が存分に込められていて、暗く沈んでいた私の気持ちを前に向かせる力強さがあった。
そしてその強さこそが、私が17年間、UVERworldから目を離せない所以でもある。
原点回帰のようで全く新しいアルバム、それが『30』だ。

UVERworld『30』に込められた「決意」

『30』は2021年12月に発売されたUVERworldの11枚目となるアルバムで、2023年4月現在彼らの最も新しいアルバムでもある。コロナ禍真っ只中に発売された本作は、活動を制限されながらも確実に前進してきたことを証明する内容だ。
UVERworldはコロナ禍でも決して歩みを止めなかった。
2020年の夏前という早い段階で配信ライブをし、有観客ライブで人数制限がかかれば、一日二公演開催をスタンダードにして多くの人に音を届けた。観客が声を出せなければ、あらかじめ録音したファンの声をスピーカーから流して迫力のある空間を作り出した。
バンドとして初めての境地に立たされながらも、限られた範囲で全力で戦い、その中で生まれた楽曲たちで構成されたアルバムが『30』だ。

2019年にリリースした前作の『UNSER』は、R&B調の曲や電子音を前面に押し出した曲など、これまでのUVERworldの中で最もエレクトロニックなアルバムだった。ここ数年の音源で生バンド感が薄れているのは明白で、『UNSER』を聴いた時はこの方向性の音楽を突き詰めていくものだと思っていた。
ところが『30』は、電子音を効果的に取り入れているものの、シンプルな音作りに変化している。音を重ねて迫力を出すというよりも、歌詞が伝わりやすいようにサウンドを最適化した印象だ。
元々メッセージ性の強さがUVERworldの持ち味の一つではあったが、言葉の比喩や抽象的な表現が少なくなり、これまで以上にストレートな歌詞が目立つ。
Vo.のTAKUYA∞は、『UNSER』をリリースした直後から言葉に特化したアルバムを作りたいと考えていたようだが、それがコロナ禍という情勢も相まって、より強固な想いが込められた言葉となり、音に乗せられている。
だからこそ『30』にUVERworldの真髄があると言っても過言ではない。

そんな『30』にあえてテーマを付けるとするなら、「決意」だろう。
それはUVERworldの決意であり、聴いている私たちの決意でもある。

一曲目に据えられた”EN”は、その決意を感じるのに十分すぎる曲だ。
この”EN”では、彼らの音楽にかける想いや生き様といったものが歌われていて、真正面からぶつかってくるストレートな言葉の数々や終始叫ぶように歌うボーカルに、聴いていて圧倒されてしまう。
〈俺達にとって音楽はビジネスなんかじゃねぇ!これが人生の全て!〉1と声を枯らして叫ぶパートは、嘘偽りのない気持ちが伝わってくる。

それだけでなく、この曲は「お前」=聴いている私たち、にどうするかと問いかける。
〈I’m gonna go go(俺は行く)Are you gonna go?(お前は行くか?)〉1力強い叫びとサウンドから一転し、サビでは優しさを含んだメロディで「お前はどうする?」と投げかけ、終盤で〈見つけろ!お前にとっての「全て」〉1と聴いている者の背中を押してくる。
彼らの決意表明のようなこの曲は、同時に聴いている者の気持ちを大きく揺さぶり、自己を見つめ直すきっかけを生じさせる。

M2”One stroke for freedom”は、韻を踏みながらHIP HOP調のトラックに乗せて、今後の活動方針を示すような内容になっている。
〈したい事以外はもうしない 自分にがっかりしたくない〉〈もう売れなくても良い 自分自身の在り方を誇れるように〉2一見、傍若無人な様に思えるかもしれないが、これもUVERworldがかねてより大事にしている音楽に向かう姿勢だ。
〈でもその生き方をずっと貫いてたら 今よりもむしろ売れちゃうかもな それを誇りに思わせたい〉2自分の好きなこと、信じることを貫き通した結果、今よりももっと大きな世界に辿り着けるはず。そう前向きなことがここでは歌われていて、それをファンに見せていくとの誓いを立てている。
M6”THUG LIFE”でも軽快なアコースティックギターに乗せながら〈俺を必要としない人は 俺にとって必要ない人 むしろかわしていけ〉3と、自らを信じて進むことの大切さを歌い上げる。

テレビドラマ 『アバランチ』の主題歌としてシングルで先行発売されていたM5”AVALANCHE”は、『30』の中で最も『UNSER』の流れを色濃く引き継ぎ、重厚感と迫力を兼ね備えた曲だ。
〈I will take you to the light from the dark night〉4と、暗い現実を夜と例え、そこから聴いている人たちを連れ出す宣言をする。その行き着く先は彼らの音楽やライブ空間が作り出す新たな世界といった意味合いで、歌詞もサウンドの広がりも、とても希望を感じさせるものになっている。

この数曲だけでも、UVERworldが今後何を大切にして、どう在ろうとしているのか、バンドとしての決意を『30』で強く示そうとしていることが分かる。
だが、その熱気溢れる曲ばかりでなく、M7”SOUL”、M8”来鳥江”では、力の抜けた歌詞で音楽を純粋に楽しむ姿を見せてくるのも面白い。この二曲では、昔からのミュージシャン仲間である愛笑むや、山田孝之、青山テルマをフィーチャリングに迎えて絶妙なグルーヴを生み出している。
他にも中国の故事を元にしたラブソングの”えくぼ”や、メンバーへの感謝の気持ちを歌にした”OUR ALWAYS”など、収録曲はバラエティに富んでいる。

それでもやはり共通しているのは、自分たちが歩んできた道、これから進む道を信じていて、それを音楽で表現していることだ。とりとめのない歌詞を気心知れた仲間たちと歌っている”SOUL”や”来鳥江”も、自分たちが作り出すものに自信があるからこそなせるわざだ。

そしてこの『30』を聴き終えたとき、私たちには「お前はどうする?」という問いが残される。
こうも真っ直ぐに向き合ってきて、想いを音に乗せてぶつけられたのならば、今度は自らに向き合わざるを得ない、誰もがそんな気持ちにさせられるだろう。

『30』を聴いて

冒頭で記したように、コロナ禍で私の気持ちは暗く沈んでいた。それはおそらく私だけでなく、誰もが未曾有の事態に直面し、不安を感じながら生きていたと思う。
そんな中でもUVERworldはコンスタントに活動を続けていた。
2020年12月のライブで初めて”EN”を聴いた時、とても衝撃を受けたのを覚えている。この時はまだ”EN”のリリースも決まっていなかったころで、歌詞も現在とは異なるものだったが歌い出しは変わっていない。

〈あの日から突然 何もかもが変わってしまった〉1

そしてこう続く。

〈でも 永遠に抱える価値ある悲しみだと そう信じて…今日も行こう〉1

下を向いてばかりではいけない。いつだってUVERworldは前進していたし、そんな彼らから受け取ったものが自分にはたくさんある。自分が経験してきたことや感じてきたこと、考えていることに自信を持って進まなければいけない。
後に『30』がリリースされて聴きこむうちに、ますます強くそう思うようになった。

UVERworldは、2023年7月にバンド史上最大規模となる日産スタジアム公演2daysが決定している。このライブに向けてメンバーは、全員が毎日欠かさず走り込みをし、体重管理をするというストイックさだ。
さらには次のアルバムに向けた曲作りも並行して行われている。
彼らにとっては、決意を示した『30』もすでに過去のものになりつつある。
まだ見ぬ世界を彼らが見せてくれることを信じて、そして、私自身も彼らのように自分の生き方に誇りを持てるように、今は『30』を聴きながら歩みを進めようと思う。


1UVERworld “EN”(作詞:TAKUYA∞)より歌詞を引用。
2UVERworld “One stroke for freedom”(作詞:TAKUYA∞)より歌詞を引用。
3UVERworld “THUG LUFE”(作詞:TAKUYA∞)より歌詞を引用。
4UVERworld “AVALANCHE”(作詞:TAKUYA∞)より歌詞を引用。


UVERworld OFFICIAL WEBSITE-DISCOGRAPHY-『30』
UVERworld日産スタジアム公演 特設サイト

関連記事一覧