Official髭男dism「Chessboard」レビュー|ルールも役もない盤上で

“人生については誰もがアマチュアなんだよ”

これは伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』に登場する、私の大好きな一文である。(余談だが、私は発言主の黒澤というキャラクターがとても好きだ)
誰もが人生1回目。経験者はいないのだから、どうすれば上手く生きられるかなんて誰も分からないのである。

Official髭男dism「Chessboard」レビュー

自分は何を目指して、どう進んでいくべきか。そんな人生の問いを歌っているのが、Official髭男dismの「Chessboard」(作詞:藤原 聡)だ。

曲中では、私たちが生きる世界が盤上、自分自身が駒に例えられている。
周りと違うことを木の実に交じるピーナッツに例えた「ミックスナッツ」もそうだが、いざ言葉にすると難しい仕組みや感情を、具体的な何かに置き換えて表現するのが藤原聡は非常に上手い。

〈チェスボードみたいなこの世界へ僕らは/ルールもないままに生まれてきた〉〈王様もいないこの盤上で僕らは/どんな役を与えられたんだろうか?〉
ルークなら縦横、ビショップなら斜めと、実際のチェスでは駒ごとに進める方向が決まっている。
しかし、私たちが生きる世界にそんなルールは存在しない。そもそも自分がどんな役を与えられたのかすら分からない。だからこそ私たちは、自分が何者なのか、どう生きていくべきなのかと迷ってしまう。

いつしか自分のやりたいことを見つけても、それがすぐに叶うとも限らない。
〈自分で決めて歩いていく〉中で、〈大きな歩幅でひとっ飛びのナイトやクイーン〉のようには進めず、なかなか縮まらない理想との距離を歯がゆく思うこともある。

一方で、そんな悩ましい日々もかけがえのないものだと「Chessboard」では歌われている。
〈空中からじゃ見落とすような小さな1マス/そこであなたに会えたんだ〉〈あなたが生きた証は時間と共に育つのでしょう〉──こうして悩んでいる日々にも何かしらの意味があって、いつか努力が実を結ぶ日が来るはずだと優しく教えてくれるのだ。

この曲は「NHK全国学校音楽コンクール2023」の課題曲だけあって、親しみやすさを意識しているのか、骨組みもとてもシンプルだ。とくに前半はA→A→B→Aといったように、同じパターンのメロディーが何度か繰り返される。

楽曲が大きく変化するのは後半。冒頭から繰り返されたメロディーが1オクターブ上で歌われ、続けて違うパターンのメロディーが登場する。ストリングスが増し、壮大なコーラスが入ってきて盛り上がりを見せる。
このエンディングのドラマチックさに私は1番惹かれた。

私自身もそうだが、おそらく誰もが期待しているのではないだろうか。
人生については誰もがアマチュアなのだから、遠回りもするし失敗してつまずくことだってあるだろう。でも、いつかその先で、自分が満足する未来に辿り着けることを信じている。

ハッピーエンドに期待しながら、自分が進みたいと思う方へ進んでいきたい。夢見がちだと言われるかもしれないけれど、それでもいいと私は思っている。

自ら道を選べることも、選んだ未来に期待できることも、ルールのない世界で役を知らずに生きる、私たちの特権なのだから。

〈関連記事〉

関連記事一覧