MOROHA無敵のダブルスツアー

MOROHA×ランジャタイ「無敵のダブルスツアー」ライブレポート

 

2022年は私にとって思いがけない年だった。
なぜなら、人生で初めて「お笑い」にハマってしまったからだ。それもランジャタイに。

もともとテレビのネタ番組を見るのは好きだったが、お気に入りの芸人ができることなんてなかった。
そんな私がなぜお笑い芸人にハマってしまったのか。
ずっとその答えを探していたが、MOROHAの「無敵のダブルスツアー」で見つけることができた。

「音楽とお笑いは実は同じところに向かっているんだ」
この言葉が印象に残った、とてもいいライブだった。

MOROHA×ランジャタイ「無敵のダブルスツアー」@熊谷市立文化センター

2022年11月5日、MOROHAの「無敵のダブルスツアー」が幕を開けた。このツアーは、MOROHAが人気芸人とツーマン形式で各地を回る特異なツアーだ。
初日の熊谷公演は2021年のM-1ファイナリスト・ランジャタイをゲストに迎え入れて行われた。

ライブはまずはランジャタイからスタート。
ネタは”釣り”と”デロリアン”(通称)。”デロリアン”は、ファンのあいだではランジャタイの勝負ネタという認識があるが、そのネタを持ってきたことにランジャタイのこのライブにかける熱量の高さが感じられ、思わず胸が熱くなった。
MOROHA目当ての観客も多い中、ランジャタイはいつもと変わらずに会場を盛り上げて20分強のステージをやりきった。

続いて、ランジャタイの嵐のような漫才から一変し、MOROHAの二人が静かにステージに現れる。
アフロ(MC)が客席に向かって深く一礼をしたところで照明が影を落とし、UK(Gt.)が奏でる軽快なアルペジオが会場内に響き渡る。

MOROHAの一曲目は”チャンプロード”だ。〈無敵のダブルスなめんじゃねぇ〉1と、今回のツアータイトルにもなっている自身の覚悟とも世間への挑発ともとれる咆哮で、一気に会場の空気をピリっとした緊張感のあるものに変化させる。
間髪を入れずに”スコールアンドレスポンス”へと続き、「M-1で戦うランジャタイへ」の言葉とともに”勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ”を披露。一層低い姿勢となり、力を振り絞るようにして歌うアフロの姿が印象的だった。

ステージ上には派手な照明や演出は一切なく、そこにはアフロとUKの二人がいるだけだ。
だがそれ故に、観客はストレートな歌詞に向き会わざるを得なくなる。〈勝てなきゃ皆やめてくじゃないか 勝てなきゃ皆消えてくじゃないか〉2MOROHAの歌詞はきれいごとが並んでいるわけではない。誰もが頭では理解しているけれど、目を背けている。そんな言葉を投げかけてくる。

家族への感謝や優しさを歌詞にした”恩学”を歌ったかと思えば、「次は家族に一番中指を立てた曲です」と言って”ネクター”を歌う。まるで正反対の曲に観ている側の感情は振り回されるが、暗い事実や感情をさらけ出すアフロにどこか親近感を覚え、自分の歌のように感じた者は少なくないはずだ。その証拠に、ライブが進むごとにあちらこちらから鼻をすする音が聞こえ、アフロの放つ言葉が観客一人ひとりの心を掴んでいくのが分かった。

MOROHAの代表曲でもある”革命”では、冒頭の語りの部分でランジャタイのネタ”デロリアン”の描写の一部を引用し、この日ならではの”革命”を披露していた。

最後の曲へ入る直前、アフロがUKに突然「違う曲にしよう」と小声で提案。一瞬面食らった表情を見せるUKであったが、即座にその提案にあわせてギターのチューニングを行う。
曲を変えた理由をアフロが語る。「本当は最後は優しい曲にしようと思っていたんだけれど。客席の後ろで観ているランジャタイが睨んできてるから、ぶっ飛ばす曲をやる!」と、軽く冗談を交えつつ”四文銭”を披露。
「俺たちがMOROHAだ、お前は誰だ!」アフロの力強い魂の叫びとともに曲が始まる。アフロは体を大きく揺らしながら感情を込めて歌い、UKのギターもより一層力強い音を奏でる。〈命を懸けて命を描け〉3ランジャタイに、そして観客に向けて熱い言葉が投げかけられた。

約60分のライブをやりきったMOROHAは「最後まで楽しんでいって!」と、この後再び登場するランジャタイへの期待を口にしてステージを後にした。
ランジャタイはM-1の予選で披露したネタなど計三本披露し、ライブの本編は大いに盛り上がって幕を閉じた。

最後はMOROHAとランジャタイの両者がステージに現れ、トークの時間に。
YouTubeにある非公式MAD「もしMOROHAがランジャタイだったら」の話題になり、ランジャタイ国崎の提案によって本人たちがそれを再現するスペシャルな展開となった。
“革命”のギターに乗せてランジャタイが漫才”弓矢”を披露。同じセリフを何度も繰り返す漫才”弓矢”は、音楽と親和性が高いという面白い発見もあった。

音楽とお笑い、MOROHAとランジャタイにある共通点は

この日アフロはMCで、今回芸人とツアーを回る理由を「人を笑わせる一点に全力をかける芸人を尊敬しているからだ」と語った。
さらにこうも語っていた。「俺たちの曲は歯を食いしばって、拳をギューっと握りしめたくなるような曲なんだ。でもそれは、その先で笑顔でいるためのものであって。だから音楽とお笑いは実は同じところに向かっているんだ」

このMCを聞いた時、私がなぜお笑いにハマったのか。その理由が分かった。
というのも、これまで何かに負けそうな時、自らを奮い立たせたい時に音楽を聴くことが多かった。だがコロナ禍で今までにないほどの不安がつきまとい、音楽を聴くだけでは立ち上がれない。そんな時にランジャタイを知って心が軽くなった自分がいた。
ランジャタイの漫才を見ていると、彼らの世界にどんどん没入していく感じがして、日頃の不安から目を背けることができた。音楽を聴いて笑顔の未来を想像することが難しくなった日常で、彼らの笑いが心の傷を癒してくれたように思う。
私がランジャタイに、そしてお笑いに惹かれたのは、音楽が好きであることと異なる動機ではなかった。そのことにこのライブで気付かされた。

この日はランジャタイで大いに笑い、MOROHAで改めて自分を見つめ直した。
こうしてまた、自分が目指す場所・なりたい自分になるために日々戦っていく力を得る。そしてこの二組には、人にその力を与えられるだけのエネルギーがある。それを存分に感じたライブであった。


1MOROHA “チャンプロード”(作詞:アフロ)より歌詞を引用。
2MOROHA “勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ”(作詞:アフロ)より歌詞を引用。
3MOROHA “四文銭”(作詞:アフロ)より歌詞を引用。

【この記事を読んだ方にオススメ】

関連記事一覧