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ありのままを肯定してくれるsumikaの愛のかたち|思い入れのあるアルバムを語る“私の一枚”シリーズ

誰しも「思い入れのあるアルバム」「大切なアルバム」が一枚はあるはずだ。
そのアルバムについて語ってもらい、独自の視点で音楽やアーティストを紐解く“私の一枚”シリーズ

初回は、音楽ライターとして活動するK氏にインタビューを行った。
彼女の音楽観を変えるきっかけになったという、sumikaの『アンサーパレード』について語ってもらう。
※本インタビューは2023年1月に実施。

ありのままを肯定してくれる。それがsumikaの愛のかたち

sumikaと聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。爽やか、ポップ、明るい、陽、真面目…。私はそんな単語を思い浮かべていた。
だが、sumikaを長年応援してきたというK氏に話を聞いてみると、そんな単純な言葉には当てはまらない、今の時代に即した価値観を持ったバンドであることが見えてきた。
アルバム『アンサーパレード』を元に、sumikaを深く掘り下げてみようと思う。

『アンサーパレード』は2016年にリリースされた7曲入りのミニアルバムだ。M2″Lovers”という楽曲があるように、愛について歌われた曲が多く収録されている。
このアルバムで歌われている愛のテーマについてK氏はこう語る。

「自分が選んだことを信じていいんだよみたいな、そういう曲のテーマが多いかな。それこそ聴いてると自分を肯定してくれるメッセージ性がすごくあると思っていて。そういうところに勇気づけられてるのはあるかもしれない。私とか常に自信がないんで。そんな私でもいいんだよ、って寄り添ってくれるから聴きたくなるし、ライブにも行きたくなるのかなぁ」

それを表すように、M3″明日晴れるさ”ではこう歌われている。
〈社会の中で足踏ん張って 不満抱えて涙堪えて それでも前を睨むあなたの 震えた黒目 僕は好きだよ〉〈明日晴れるさ 上手く泣けるようにさ 僕の歌でごまかしていいから〉1

不満や不安を抱えながら日々を送る人に「現状を変えろ」と訴えるのではなく「今のままでもいい」とありのままを肯定してくれる優しさ。これがsumikaが提示する愛のかたちだ。
だが決して、耳触りのよい言葉だけを歌っているわけでもない。

「sumikaは、自分たちも弱い部分があるから、私にも弱い部分があっていいんだよ、みたいな。そういう風に歌ってくれる」
弱さに向き合った上で、それをまとめて受け入れるのだ。

少しアプローチは異なるが、M2″Lovers”でもありのままを肯定する様子が見受けられる。
この曲ではサビで〈ねえ浮気して ねえ余所見して〉2と恋愛でご法度とされる浮気を肯定するかのような歌詞が印象的だ。その後に〈最後の最後の最後には お願いこっち向いて〉2と本音を見せるわけだが、これは決して恋愛に限った話ではなく、sumikaとファンの関係性についても触れているのだという。

「sumikaは、自分たちから一回離れてもいいよって思ってるらしくって。いろんなバンドに浮気してもいいし、それでもやっぱりsumikaがいいなって戻ってきてくれたら一番嬉しいと本人たちが言っていて。でもそれって音楽以外の全部にも言えることかなって。自分がいろいろ試してみて、最後に戻ってきたものが一番大切に思えるのかなって」

曲を聴いている人に強く態度変容を促すのでも、自分たちの色に染めようとするのでもない。あなたのまま、思うままに行動して、それを肯定するし受け入れる。それをsumikaは示している。「そんなところが好きだ」とK氏は語る。

音楽家としての探求心。そこから生じる懐の深さ

では、sumikaのその懐の深さはどこからくるのかと言えば、それはやはり彼らの音作りや音楽表現の探求心からくるものなのだろう。sumikaをこのアルバムで知り、音楽観が変わったとK氏は言う。

「sumikaって後ろにDJがいてボーカルだけ歌う曲とかもあったりして、全員が別に演奏しなくてもいいみたいな、音楽的な面白さがあると思っていて。次はどういう感じで来るんだろうっていう面白さ。そういう風に思えたのはsumikaが初めて」

M4″1.2.3..4.5.6″では生ドラムではなく打ち込みを使っていたり、収録曲7曲のうち4曲にストリングスが入っていたりと、バンドという形式にこだわらないスタンスが見て取れる。自分たちのやりたいことをやりたいように表現するその自由さは、彼らの音楽家としての追求心の表れでもあるし、何者にも縛られないありのままの姿勢を体現しているようにも思える。だからこそ彼らの音と言葉に説得力が増すし、ファンは魅了されるのだ。

sumikaのこのありのままを肯定してくれる姿勢は、今の時代に即したあり方だと言えるだろう。私は、自分を変えたいという気持ちが強く、聴く音楽も自分に喝を入れてくれるようなものばかり聴いてしまう。だが、実際は変えたいと強く思う割りに変えられない、そんな現実に苦しむことも多い。sumikaのように真っ直ぐ自分を肯定してくれる音楽は、それだけで人の心を救ってくれるのだと感じる。
近頃は苦手なことは無理しなくてもいい、といった価値観が主流になっている。それは、何かを諦めて生きるという意味ではなく、自らの弱さを認める強さがあるということだ。sumikaがそれを示してくれるから、彼らの音楽は今の時代に強く響くのだろう。


このインタビューを行った後の2023年2月、Gt.の黒田隼之介が逝去した。その突然の訃報にsumikaのファンはとてつもなく大きなショックを受けたことだろう。今回インタビューしたK氏も悲しみを口にしていた。だが同時に、「sumikaを終わらせてほしくない、続けてほしい」とも語っていた。

その願いのとおりsumikaは前に進む選択をし、5月には横浜スタジアムでのライブを敢行した。次のツアーも発表されている。
バンドメンバーを失うという大きな悲しい出来事。だが、その悲しみも受け入れ、たとえボロボロになったとしても、ありのままの姿で前進するsumikaの姿に勇気づけられる者もいるはずだ。
そんな彼らの音楽が永く続き、たくさんの人に勇気を与え続けてほしいと強く願う。


1sumika “明日晴れるさ”(作詞:片岡健太/黒田隼之介)より歌詞を引用。
2sumika “Lovers”(作詞:片岡健太)より歌詞を引用。