女王蜂『十二次元』レビュー|女王蜂が辿り着いた境地
2023年も半分が過ぎたので、今年上半期(1月~6月)にリリースされたアルバムの中から、勝手ながら1枚選出してレビューを書こうと思う。
私の2023年上半期ベストアルバムは、2月1日にリリースされた女王蜂の『十二次元』だ。
女王蜂『十二次元』レビュー
前作『BL』からは約3年ぶりのリリース。個人的には、この3年で女王蜂の存在はずいぶんと世間に浸透した印象だ。テレビアニメのタイアップも増えており、最近だと『推しの子』のED主題歌「メフィスト」で興味を持った人も多いかもしれない。本作にもTVアニメ『後宮の烏』のOPテーマ「MYSTERIOUS」や、 『チェンソーマン』第11話EDテーマ「バイオレンス」などが収録されており、近年の女王蜂の躍進ぶりを物語る1枚である。
まず、アルバム名の『十二次元』を目にした時、率直に女王蜂にぴったりのタイトルだと思った。私たちがいる三次元ではなく、その先の四次元でもなく、遥か先の十二次元。もはやどんな場所か想像すらできないけれど、今いるところから完全に切り離されているとも言えない世界。浮世離れしたオーラをまといつつも、誰もが心に宿らせるような怒りや悲しみを曲にする、女王蜂そのものを表したようなタイトルだ。
タイトルにちなんでか、収録曲数はきっちり12曲。この12曲の流れが非常に良い。
1曲目の「油」は、和のエッセンスを感じるサウンドに、アヴちゃんの変幻自在のヴォーカルが炸裂する、女王蜂の武器をありったけ詰め込んだようなナンバーだ。景色が目まぐるしく変わり、おそらく初めて聴いた時は、何が起きているのか分からないうちに曲が終わっているのではないかと思う。
余韻を引きずったまま、イントロが長めにアレンジされたアルバムバージョンの「犬姫」を聴き、「夜啼鶯」で〈さあ、参りましょう〉と告げられたところで気づく。この時点ですでに、私たちは女王蜂がつくりだす世界に引きずり込まれているのだ。(“誘われる”や“連れていかれる”ではなく、“引きずり込まれる”という表現が1番近いように思う)
先述した「犬姫」もそうだが、既発曲がリアレンジされて収録されている点も聴きどころである。例えば、「KING BITCH」はラッパー・歌代ニーナを加え、2人の掛け合いが楽しめる内容に。「夜天」は「堕天」と曲名を変え、力強いバンドサウンドを主軸とした形に生まれ変わった。また、アヴちゃんが低音・高音ヴォーカルを使い分けて1人2役を演じる「回春」は、アルバム『綺麗』収録の「売春」を彷彿させる。元の曲を知っていれば変化を楽しめるし、知らなければ遡って聴きたくなるだろう。
最後から2曲目に収録された「長台詞」は、名前の通りおよそ2分半にわたるアヴちゃんの朗読劇だ。昨年、アヴちゃんはミュージカルアニメ映画『犬王』で犬王役を務めており、演劇的なアプローチの曲が含まれたのは必然だったように思う。主人公が〈踏み締めて進むわ〉と告げた先に待っているのが、表題曲の「十二次元」。1番の歌詞は1~12の数字、2番の歌詞は十二支を用いた歌詞の言葉遊びが面白い。ミステリアスな雰囲気が続く中、1~12のカウントともに曲は終わり、再び1曲目の「油」へと戻っていく。
「十二次元」(作詞:薔薇園アヴ)のラストで〈さあ誰のせいにもせずに/可愛いおばあちゃんになるの/歌い踊り〉という歌詞が登場するが、このフレーズに女王蜂というバンドの在り方が反映されているように思う。奇抜なビジュアルや、毒々しさを放つ楽曲たち。それらをポップミュージックに消化させる独自性を保ちながら、女王蜂は快進撃を遂げてきた。そして、辿り着いた境地が“十二次元”。このバンドの勢いはとどまることを知らない。