米津玄師『KICK BACK』レビュー|常田大希と見せる着飾らない素の姿
2023年8月、米津玄師の“KICK BACK”がアメリカレコード協会(RIAA)からゴールド認定を受けた。発売から一年が経ってもなお注目を集める“KICK BACK”には、それだけ人々を惹きつけるパワーがある。
その魅力の根源は、米津が本作で見せた「素の姿」であると筆者は考える。
米津玄師『KICK BACK』レビュー
全世界待望のアニメ「チェンソーマン」のために書き下ろされた“KICK BACK”は、米津らしからぬ楽曲で新たな一面を見せている。
米津の楽曲と言えば、ストリングスの上に美しい歌声が重ねられ、その世界観に浸って得られる心地よさがあるが、今作はシャウトのような歌唱で曲も歌も非常に荒々しい。2017年の“爱丽丝”以来となる、King Gnu/millennium paradeの常田大希を共同編曲に迎えていることも大きいだろう。
米津と常田は今作について「少年を取り戻した曲になったと思う」とYouTubeでの対談で語っており、米津らしからぬ表現は、実はこれまで着飾っていたものを脱ぎ捨てた真の姿であると捉えることができる。
それを体現するかのように、“KICK BACK”のミュージックビデオは、まるで子どもの脳内を表現したかのようなユーモアあふれる演出でSNSを中心に大きな話題になった。
曲内に使われたモーニング娘。の“そうだ!We’re ALIVE”のフレーズも、米津が少年時代に聴いて歌詞に引っ掛かりを覚えたことが発端になっていると先の対談で語られている。
加えて、カップリング曲の“恥ずかしくってしょうがねえ”では、少ない音数に乗せて米津の根底にある暗い感情が包み隠さず歌われている。
“Lemon”以降ヒット作を連発し、世間に受け入れられている米津が、二曲それぞれ異なるアプローチで素の感情を見せたのが『KICK BACK/恥ずかしくってしょうがねえ』なのだ。
米津の根幹に触れられる楽曲だからこそ、聴いている多くの人たちはこれまでの彼らしからぬ表現に驚き、新鮮さを感じ、そして魅了される。
米津は“KICK BACK”について、自分の中の1つのモードを終わらせた曲であると語っており、自身のキャリアの中でも重要な作品になったことを明言している。(参考:音楽ナタリー『米津玄師インタビュー|「KICK BACK」米レコード協会ゴールド認定に寄せて』)
素をさらけ出したことによって今後米津が作る楽曲にどのような変化が表れるかは注目であるし、彼の中で転換点となった今作は必聴である。
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