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無伴奏ソナタ ポスターの画像

『無伴奏ソナタ-The Musical-』感想|ミュージカル化した名作を初めて観たら感動した話

『無伴奏ソナタ-The Musical-』、東京・千穐楽に行ってきました。

2012年に演劇集団キャラメルボックスによって初演、2014年、2018年と再演された舞台作品のミュージカル版です。
とはいえ、私自身は今回が初観劇。きっかけは、舞台版を観ていた妹から「音楽に関する内容だし、すごく良い作品だから!」と誘われたことでした。

キャッチコピーが“もしも音楽の天才が、音楽を禁じられたら?”であること、アメリカのSF作家であるオースン・スコット・カードの短編が原作であること、あとは冒頭に書いた以上の知識をほとんど入れずに観に行ったのですが、とんでもなく感動して帰ってきました。以下、その感想です。

※一部本編の内容に触れていますので、これから鑑賞される方はご注意ください。

『無伴奏ソナタ』のあらすじ

舞台は、幼少時に受ける適性検査でその人の職業が定められる、“幸福法”と呼ばれる法律が存在する世界。
主人公のクリスチャンは音楽の才能に秀でていて、メイカー(作曲家)になることが決められます。

メイカーは独創性を重んじられており、外部の音(他人が作った音楽など)に触れることを禁じられていました。
ところが、クリスチャンが30歳になったある日、リスナー(メイカーの作る曲を聴いて評価する職業)のひとりが彼に近づきます。

「君の音楽には欠けているものがある」、そんな言葉と共に渡されたレコーダーに収録されていたのは、バッハの「無伴奏ソナタ」でした。

聴いてはいけないと思いながらも、リスナーの言葉に不安に駆られたクリスチャンは曲を聴いてしまいます。
そして、彼の作った音楽がバッハの影響を受けていることに気づいたウォッチャー(メイカーがルールを犯していないか監視する職業)によって、クリスチャンはメイカーの肩書きを外され、以後曲を作ることも、楽器を演奏することも、歌うことも禁じられてしまうのです。

本当の幸せとは

というのが序盤のストーリーなのですが、もうここからが辛いです。

何度遠ざけられても、クリスチャンの周りには必ず音楽がやって来てしまう。彼もまた、“音楽をやりたい”という気持ちに抗えません。
楽器を演奏し、歌を作り、彼の才能に魅了された周りの人たちには笑顔があふれます。しかし、その度にクリスチャンは罰を受けることになってしまうのです。

人々が幸せに暮らすために定められた“幸福法”。自分は何を目指せばいいのか悩むぐらいなら、はじめから自分の役割が決められていた方が楽なのかもしれません。
しかし、クリスチャンの人生を通して、それが本当に幸せなことなのかと考えさせられます。

もしかしたら、作中の人物たちもそうだったのかもしれません。

後半のキーとなるのが“シュガーの歌”。クリスチャンがブドウ農園で働いていた時、周りに促されて作った歌です。
“シュガーの歌”は人々によって歌い繋がれ、遠くまで届くことになります。
この世界に生きる苦しみ、悲しさ、微かな希望──そういった彼の想いが込められていたからこそ、この歌は多くの人の共感され、広まっていったのではないかと思います。
そのために、ウォッチャーにまた見つかってしまうのが皮肉なのですが……。

そして、演者と観客で完成されるラストシーンが、もう涙が止まりませんでした。
見方によっては不幸に思えるクリスチャンの一生ですが、決して不幸ではなかったんだろうなと思います。

主演の平間壮一さんをはじめ、キャストの皆さんの光と闇を描くような演技が素晴らしかったです。
ちなみに前知識無しで観に行ったので、ウォッチャー役の多田直人さんは舞台版でクリスチャン役を演じていた方だと終演後に知りました(無知すぎて本当にすみません)。本編で明かされるウォッチャーの立場を踏まえると、なんて胸熱なキャスティング……!

実際に観て、この作品が長く愛されている理由がよくわかりました。もし再演されるなら、舞台版も観てみたいです。

最後に、本公演は8月7日~8月14日の期間で動画配信、12月にBlu-ray発売も決定しています。興味を持たれた方はぜひ観てみてください。

『無伴奏ソナタ-The Musical-』公式サイト

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