sumika『Vermillion’s』@広島・上野学園ホール ライブレポート

3月から6月にかけて行われたsumikaの全国ツアー『sumika Live Tour 2025「Vermillion’s」』。
全33公演、3人の音で始まって3人の音で終わるアルバム『Vermillion’s』を携えて開催された本ツアーは、“3人でsumikaとして音を鳴らし続ける”という覚悟を示したものだったと思う。

それを強く感じたのは、ライブの中盤。いつも通りゲストメンバーを迎えた編成でのツアーだったが、途中で片岡健太(Vo/Gt)、小川貴之(Key/Cho)、荒井智之(Dr/Cho)のみでのステージが繰り広げられた。

小川がボーカル、片岡がベースを弾く形で披露された「Summer Vacation」の後、sumikaのはじまりの曲「雨天決行」へ。演奏が終わると、3つの拳を突き合わせる映像がスクリーンに映し出される。
3月にリリースされた『Vermillion’s』は、前作『For.』から約2年半ぶりのアルバムだ。その間、バンドは本当に色々なことがあった。優しくも、凛とした強さを感じる3人のアンサンブルは、何があってもやめない決意を表すようだった。

筆者が見届けたのは、5月10日に行われた広島・上野学園ホール公演。セットリストは『Vermillion’s』の楽曲を軸に構成されていた。ステージの背後には、花で彩られた朱色の時計。周りにはメトロノームや街灯、招き猫などのオブジェクトが並び、カラフルな空間が広がっている。
アルバムと同じく「Vermillion」、「運命」の流れでオープニングを飾り、「ふっかつのじゅもん」から「リビドー」へ。ステージにはデジタルメーターのようなセットが登場し、最後に「250510」──つまり、公演日を映し出していた。

ライブの後半は、「Starting Over」、「VINCENT」、「チェスターコパーポット」とたたみかけ、さらに6曲を盛り込んだ怒涛のメドレーへと突入。会場の熱気も最高潮に達した。

そこから一呼吸置くようにして、片岡が静かに語り始めたのは、2023年2月23日からの2年余りのことだった。「地獄だった」──計り知れないほどの絶望を抱いたこと。一方で、音楽をやっている時だけはポジティブな気持ちになれたこと。そして気づいたという。「好きなことを好きな人と一緒にやる。それ以上のことはない」、と。

好きなことに対して、周りから何かを言われたり、向いていないと感じたりすることもある。彼自身もそうだったという。けれど、今もこうしてsumikaが続いていることを告げながら、「好きの正解は自分しか決められない」「あなたの好きを守り通してください」とメッセージを送り、「Dang Ding Dong」を届ける。明るく華やかなサウンドが、私たちへのエールとなって会場に響きわたっていた。
そして、朱色のライトがステージを染めるなか、アルバム同様に「’s-エス-」で本編は幕を閉じたのだった。

アンコールでは、片岡と小川のツインボーカルで「マイリッチサマーブルース」、ゲストメンバーの紹介も含めた「Lovers」が届けられた。ラストは「10時の方角」。『Vermillion’s』の収録曲ではないけれど、この曲を最後に持ってきた理由はなんとなく分かる。演奏が終わると、スタッフがステージセットを撤収させ、ステージはゼロの状態に戻る。〈はじまり はじまり/いざスタートライン〉*──そう、ここからまた始まっていくのだ。

こうしてずっと、sumikaの歴史が刻まれ続けていくことを願ってやまない。

* sumika「10時の方角」(作詞:片岡健太)より歌詞を引用。

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